読谷文の本棚

読んで心に残った本の感想を綴ります。

『八ヶ岳南麓から』上野千鶴子|先輩の、山暮らし愛

『八ヶ岳南麓から』
上野千鶴子 著
山と溪谷社
初版年月日 2023年11月21日

 

上野千鶴子さんの、20年以上にわたる東京と八ヶ岳の二拠点生活を綴ったエッセイ。上野さんが私生活を書かれた本は、おそらく本書が初めてとのこと。

もうタイトルと表紙だけで、ちょっとうらやましすぎて鼻血が出そうなんだけれども、本が良すぎて、思わず丸善ジュンク堂で開催されていた刊行記念の著者トークイベントも視聴してしまった(美しいお庭の写真を見ることができて嬉しかった)。
 
四季折々の自然の美しさは言わずもがな、山暮らしの実際問題「これってどうするの?」へのtipsがたくさん書かれていて、実用書としても大変参考になる貴重な本だと思う。

土地探しから家を建てるまで。
(期間限定の中古も可、まずは貸別荘からのスモールステップを)
上下水道や、冷暖房、虫対策。
移動手段としてのクルマと運転免許証問題。
コミュニティはどうなっているの問題。
おひとりさまの最期問題。
色川大吉さんのこと。

合間に挟まれる鮮やかなイラストも素敵だ。
「大好きな北杜で最期まで」の章では、北杜市の介護事情の進化に触れられていて、その介護事業自体も素晴らしいし、それを立ち上げた看護師や医師の方たちのパワーが凄いなぁと圧倒された。

✴︎

人生を先行く先輩たちが楽しそうにしている様子を見るのは、とても励まされる。
私が目指す人生の先輩の二大巨頭といったら、橋田寿賀子さんと瀬戸内寂聴さんだ。お二人とも生涯現役で、書くことへの情熱を失わずに、筋トレやリハビリに励んでいた姿をテレビで拝見していた。

NHKで、沙知代夫人を亡くした野村克也さんと橋田寿賀子さんが対談していた番組を見たことがある。痛々しいほどにしおれてしまっているノムさんに対し、「元気があれば何でもできる!」と言わんばかりの橋田寿賀子さんがすごく対照的だったのを覚えている。

もちろん橋田寿賀子さんも瀬戸内寂聴さんも、非凡な才能と努力と体力と、それによって得た財力の持ち主で、凡人にははるか遠く及ばない存在かもしれない。
けれども、その心意気やスピリットを参考に、少しでも取り入れられることはないだろうかと考え抜き、手を動かすことならできる。少なくとも「あの葡萄は酸っぱい」とはなから目指さないよりは、いくらかマシなはずだ。
そう考えて毎日を生きている。